#005 松塩クリニック透析センター 薬剤部部長 宮澤 智絵
薬学部では、学生が2週間ほど1日3回自分で薬を飲むという服薬実習があります。が、実は100%服薬できる学生はほとんどいません。
「外食したので忘れた」「朝寝坊して飲めなかった」「錠剤と粉があると面倒で」「なぜかわからないけど・・」などなど、理由は様々です。薬を毎日決められたように飲むのは、なかなか大変なことなのです。
「前回の薬がまだ3週間分残っているので、処方はしばらく後でいいです。」ある透析患者さまのご家族の言葉です。1か月前に残薬を調節したばかりの患者さまです。ということは、1か月で1週間分を飲んだだけ?
ご本人は、「ちゃんと飲んでます。ありがとう。」と話されていたのに・・・。このご家族は朝早くから夜遅くまでお仕事をされていますが、患者さまの薬を食卓に揃えてから出かけるそうです。
でも、食事時間には家にいないので、服薬を見届けることはできないとのこと。一生懸命服薬のお手伝いをしてくださることに薬剤師として感謝しつつ、ご家族のサポートだけに頼ることは難しいと感じました。

別の患者さまは、「順調です!飲んでるよー!」とおっしゃっていて、問題なく服薬されていたようでしたが、処方内容が変更になった時、「(飲み方が)わからなくなっちゃった。」と、何週間分もの薬を後で持ってこられました。
また別の、「特に多く残ってる薬はないよ。」と仰っていた方についても、他のスタッフから、お昼は忘れやすく、ほとんど飲めていないようで、大抵は捨てていた様子だったと聞いて、落ち込んだことがあります。
特に、透析患者さまに必要な、毒素を吸着する薬は、飲む時間が特殊なので忘れやすかったり、量が多くて飲みづらかったりして、服薬されずに残ってしまうことが多々あります。が、この薬は、血糖や血圧を適切に保ち血管を守ってくれる、とても大切なものです。
最近では、透析患者さまも、過度の食事制限はせずにしっかり食べて体を動かすことで、低栄養やフレイル(虚弱)、認知症などを防いで長生きできるということがわかってきました。しかし、食事をしっかり摂った後は、害になる毒素を体外に出さなくてはなりません。なので、この薬は大事なのです。しっかり服用していただくことのメリットを、ぜひご理解いただきたいと思っています。
さらに、たとえば食後服用と書いてあっても、食事を摂らなかった場合は飲まなくて良い薬と、食事をしなくても飲むべき薬があります。飲む時間がずれてしまった時の対応は、実はそれぞれの薬で異なっています。ご相談いただくことで、きめ細やかに、それぞれの患者さまの処方内容に合った解決方法を考え、ご提示することができますし、本当に必要な薬をスキップしてしまうことで患者さまの健康に影響が出たりしないよう、また残薬を有効利用できるよう、ご案内をさせていただきたいと思っています。
医師は、検査の数値を見て薬を調節します。それまで処方した薬をすべて服用されたという前提で、それでも検査値が改善されなければ、薬の量を増やすことになります。患者さまが薬を服用せず、数値がそのせいで改善されないと、処方の量はどんどん多くなってしまい、恐らく残薬がさらに増えてしまうという結果になります。そうなる前に、服薬状況や飲めない理由などをお教えいただきたいと思いますし、またそういう状況に既になってしまっていたとしても、是非私たちにご相談いただきたいのです。薬が残ってしまう理由を考え、医師や看護師と一緒にどうしたらその患者さまが必要な量の薬を飲めるようになるのか工夫することは、私たち薬剤師の大切な仕事のひとつです。
5年ほど前に厚労省から発表されたいくつかの試算によれば、残薬の総価額は年間100~8700億円にも上る可能性があるとのこと。薬が残ってしまった場合も、その理由や分量を考慮して処方量を調節したり、残った薬を有効に利用していくことで、不要な処方増を減らすことができれば、増大し続ける医療費の抑制につながります。なので、残っている薬について教えていただくことは、最終的には社会への貢献にもなると言えます。
そして、これはぜひ覚えておいていただきたいのですが、院外の調剤薬局でも、残薬の調節の相談をしてもらうことができます。残薬を入れる専用の袋ももらえますし、薬の仕分けや整理もしてもらえます。さらに、ご自宅にうかがって、薬を服用タイミング別にセットしたり、服薬の状況を確認してもらえたりもします。つまり、薬が飲めているか、飲みづらい理由は何かという状況を把握してもらうこともでき、その結果をもとに、患者さまにとって最も良い解決方法を、当院の医師や薬剤師と一緒に検討してもらうことができるのです。
どんな薬にも、少なからず副作用もありますし、名前や見た目が以前と違ったり、雑誌などを見たりして不安になることもあるでしょう。残っていることを申し訳ないと思われている方もいらっしゃるかもしれません。一回処方を断られた方は、次もやはりもらえないのではないかと心配になることもあるかと思います。
お薬のことでお困りのことが何かあれば、自己調節したり判断したりする前に、ぜひ私たちにご相談いただければと思います。

薬剤師は薬の専門家として、最大限、皆さまのお役に立てるよう努力をしております。
いきいきと長生きしていただくために、皆さまにはぜひ、薬と上手につきあっていっていただきたいと願っております。
<掲載日時 : 2021年11月05日>