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塩分のお話

作成日:2013年1月25日

 ある患者さまのご家族から、質問がありました。

 Q.透析して帰宅すると、血圧が60位になり、起きていられない。2時間位寝て起きると130位になり、起きて動けるようになる。それなのに、午前2時ごろになると、200以上になってしまう。これは、どういうことでしょうか?

(私の回答)透析後、血圧低下が来るのは、除水が十分以上にされているということを示します。体の中の水分が減り、特に、血液中の水分が減るために、心臓が懸命に働いても血圧を維持出来なくなる為です。早朝から、200以上の高血圧状態になるのは、塩分が体に溜まっていることを示します。以前は、こういう患者さまには、3日間位の「塩断ち(シオダチ)」をしてもらったものです。漬物が好きで、しっかり食べているようなので、塩分を極力控えるようにして下さい。

 無塩状態で、3日位過ごさないと、血圧が下がるまでには、手間が掛かることが予想され、私としては、暗い気持ちでした。「減塩を徹底してくれるといいがな」と思いました。

 ご家族の努力にもかかわらず、この患者さまは、他人にも自分にも寛大な方だったので、透析患者としての過剰塩分摂取を改めることが出来ず、口や喉が渇いて、水分も大量に摂取するという悪循環から脱することが出来ませんでした。そのうち、合併症により、入院加療することになり、病院食を何週間か続けた結果、高血圧状態は、大きく改善されました。私は、自分が説明した通りの結果になったので、一安心して、大変喜んでいましたが、退院して3ヶ月ほどすると、すっかり元に戻ってしまいました。よく増やし、よく引く(除水する)人は、一見、巧みに透析生活を送っているかに見えますが、心不全が進みますし、10年くらいすると、脳出血などの大きなしっぺ返しを受けることになります。お医者さんや看護師さんから注意を受けた時には、出来るだけ早くその忠告または指導に従い、正しい生活習慣を出来るだけ早く確立することが大切です。 

 塩分摂取の問題は、大変重要なものですが、透析療法が進歩して、安定した透析が出来るようになってきた分だけ、最近は減塩が、昔より、おろそかになって来ている感じがあります。かつては、食生活をおろそかにして、減塩が守れない患者さまは、透析治療を拒否されても、仕方がないという雰囲気がありました。今は、随分、甘くなって来ています。

 減塩は、自分が一生懸命やらなければいけません!!!

 透析患者は、ナトリウム、カリウム、リンの調節において、健康体の人に比べて、不利な点が多く、尿が出ないということで、ハンディキャップを負っています。そのことについて、少し詳しくお話しましょう。

 よく勉強している人でも、知らないことがあるかもしれません。

ヒトは、1日にどのくらいの塩分を必要とするのでしょう?

 世界の民族を調査したデータによると、アマゾン川を遡(さかのぼ)って、ペルーとの国境近く、マットグロッソの辺りに住む原住民が最も少ない塩分摂取で生きていることが分かりました。第2位がヤノマモ族で、一日0.2g。第1位は名前を忘れてしまいましたがジュチ族というような名前で一日0.15gであると言います。

 そんな少量の塩分で活動できるものでしょうか。ところが、彼らは、マットグロッソの断崖を、何百メートルも上ったり下りたりして、平気で過ごしているそうです。

 私たち日本人は、そんな状態に順応していないので、こんな低塩分では、とても無理です。

 私も試してみましたが、やはり、一日1g以上摂取しないと体を動かす元気がなくなってしまうことが分かりました。

それでは、日本人の塩分摂取は、どのようにして問題になってきたものでしょうか。

 それは、高血圧による脳出血です。脳出血の原因は、高血圧ですが、蛋白食の不足で、動脈血管がもろくなっていることにも原因があります。また、血圧上昇の原因は、高塩分の他に、寒冷にさらされることにもよります。

 ここでは、塩分のことに絞って話しましょう。

 日本で、一番短命な村も、長命の村も同じ島根県にあります。短命な村は山の中の村で、長命な村は島にあります。そして、どちらも一日塩分摂取量30gを越えています。にもかかわらず、超短命と超長命に分かれるのはなぜでしょうか。海の中の村では、当然、海産物(特に藻類)を摂取します。それによって、カルシウム、マグネシウム、カリウムが体に入ります。これらの金属が、利尿作用を持ち、ナトリウムを尿中に排泄させてくれるのです。

 山梨県と神奈川県の境に道志村(どうしむら)という村があります。戦後まもなく、「おらあ三太だ!」というラジオ番組がありましたが、その舞台になった道志村です。道志村は、山梨県側の道志村と神奈川県側の道志村が隣同士になっています。そこは、長寿の村として有名ですが、海産物がない代わりに、根菜類(根っこのやさい)を、たくさん食べているそうで、それによって、カリウム、マグネシウム、リンなどを摂取できているために、ナトリウムの尿中排泄が進み、高血圧にならないためと説明されています。

 困ったことに、透析患者では、これらの金属をたくさん摂取するわけに行きません。カリウムが上がると、筋肉の痺れ、麻痺、心臓麻痺が起きてしまいますし、マグネシウムでも力が抜けて動けなくなります。騙されて、電子の水をつくる器械を買わされ、高カルシウム血症で亡くなった方もいます。皆さんは、このようなハンデを負っているわけです。一方、健康体の人々は、塩分を摂り過ぎたと思えば、根菜類や海藻類などを摂ってナトリウムを体外へ追い出してしまうことも可能なのです。

 こう考えてくると、透析患者は、体内に溜まったナトリウムを、外へ追い出す手段がなく、ナトリウム摂取を減らす以外にありません。一回の透析で十分減らせないほど、ナトリウムを摂取してしまうと、完全に無塩にして、塩断ちしてナトリウムを減らしていくより道がないのです。

 では、これを何とかするお薬はないのか?

 アリマセン!

 塩分制限せず、オクスリによって、血圧だけ下げようというのは、全く逆立ちした治療法です。これは、サービスではなく、犯罪とさえ言えます。透析患者は、十分な透析と節度ある食生活が基本です。

 これをおろそかにして、生き延びる道はないのです。

 くれぐれも、気を引き締めて、命を守ってください。しかし、恐れる必要はありません。恐れなければならないのは、自分のだらしない生活やわがままな食生活なのです。 

 当院も、私が来てから、5年目に入り、ようやくまともな透析施設と言えるようになりました。

 これからも、十分な透析治療と正しい透析生活への指導に努力して、皆さんを守って行きたいと思います。

平成22年11月26日

 

 上記は、松塩クリニックの透析患者さまの為に書いたものですが、保存期腎不全患者の生活指導にも役立つ部分があると考えたので、再掲致しました。

 CKD患者は、病状が相当進行するまで、Mg,Kを摂取させることによって、Na排泄を図ることができます。Caは、特に高Ca血症がない限り、ずっと利用できます。CKDについての治験は進歩しましたが、病状の進行を遅らせる基本が、血圧管理と腎血流保全であることに変わりありません。当地の患者さまが、早期から節塩をコントロールする習慣を身につけ、透析導入の時期が少しでも遅くなることを願って止みません。

松本市医師会報 2013(平成25年) 2月号 537号 初出